
テルモヒューマンクリエイトのオウンドメディア運営事務局です。テルモでは1985年に血管造影用カテーテルシステムを発売し、心臓血管カテーテル治療分野に進出しました。それ以来、カテーテルだけではなく、カテーテルと共に心臓の血管治療に使用するステントの開発製造も手がけるようになっています。
今回は、THC※社員も製造に携わっているカテーテルやステントの現場の様子を知っていただきたく、愛鷹工場TIS生産課DES担当(静岡県富士宮市)の筒井吏央さんにインタビューしました。
ゆくゆくはリーダーや管理職に就くのが目標。THCの新たな教育制度を活用し成長したい。
―― 筒井さんの部署で製造を担当しているステントについて教えてください
ステントはカテーテルの先端についているデバイス(道具)のひとつです。はじめにカテーテルについてお話しします。カテーテルは体内に入れる細い管です。薬や栄養を特定の部位に送り込んだり、腎臓がうまく働かないときに尿を排出したり、血管内の治療に使ったりします。
私が担当しているのは、心臓の冠動脈を治療するカテーテルの先端に付けるステントです。ステントは細くなった血管を広げるためのデバイスで、細い針金を折り畳んだような形状をしています。これをバルーン(風船)と一緒にカテーテルの先端に付けて、カテーテルで広げたい箇所に運び血管を広げる治療をします。
以前は、バルーンだけで血管を中から膨らましていましたが、それだと再び細くなる再狭窄が起きてしまうので、細い針金であるステントを広げて柱のようにします。ステントには2つ種類があり、薬剤でコーティングされている製品と、されていない製品があります。薬剤でコーティングされていると再狭窄を抑制される効果がより高く期待されるので、今は薬剤でコーティングされている製品が主流となっています。

―― 筒井さんはステント製造のどの部分を担当されていますか
ステントに薬剤を塗るには、まず下地を作るための薬剤を塗ります。下地が正しく塗られたことを検査した後に、目的の薬剤を塗ることとなります。この目的の薬剤が正しく塗られているかを検査するのが、私の仕事になります。
ステントは線幅が1mmくらいと細く、イメージとしては、爪楊枝の表面に薬剤を正確に塗っていく感じです。検査では顕微鏡を使います。異物の混入はもちろんのこと、表面に正確に塗られているか、横に塗られていたり、後ろに目的の薬剤が回り込んでいたりしていないかなど、非常に細かく検査していきます。
―― かなり精密で大変な作業に思えますが、慣れるまでどのくらいかかるものでしょうか
人にもよりますが、私の場合は慣れるまで3ヶ月くらいかかりました。不適合品にも様々な種類がありますので、どのような物が不適合品なのか覚えるのが大変でした。実物を見ないと覚えられないので、上司に「不適合品が出たら見せてください」とお願いし、都度確認していきました。また、早く慣れることができるようにと、先輩が近くで作業してくださり、いつでも質問できる環境を整えてもらえました。
ただ、慣れたら慣れたで、生産のスピードに気を取られ、急いでしまうきらいがあるので、「体に入るものなので冷静に」と、初心を忘れないよう常に自分に言い聞かせながら行っています。

―― 正確さだけでなくスピードも求められる仕事なのでしょうか
ステントを薬剤でコーティングした後は、ステントとバルーンを組み立ててから包装して滅菌する工程となります。その際に気をつけないといけないことが制限時間です。薬剤は開封して空気に触れた瞬間から劣化が始まりますので、滅菌して包装が完了するまでの時間が定められています。時間をオーバーすると製品がだめになってしまい、ここまでの作業が全て水の泡となります。
よって、自分が担当する薬剤コーティングのことだけを考えていてはだめで、後の工程の状況も冷静に判断しながら作業を進めなくてはいけません。早すぎても遅すぎても、多くても少なくてもだめというわけです。もちろん、それに気を取られて検査の質を落としてしまっては元も子もありません。医療現場で患者さんの命に関わる事故につながってしまいますので責任は重大です。
―― かなり大変な仕事ですね。プレッシャーを感じませんか
プレッシャーがないわけではありませんが、周りを見る視野や冷静な判断は学生時代にバスケットボールを通じて鍛えられていますので、逆に楽しむことができていると思っています。
バスケットボールには24秒間で攻めないといけないルールがあり、短い時間の中で周りを冷静に見てボールを回し、攻撃を組み立てていく必要があります。小学校1年生から高校卒業までやっていて、中学生の時には優秀選手や静岡東部の選抜選手に選ばれたこともありますので、その辺のスキルは十分身についていると思っています。
また、昔から目だけはいいねと言われていて・・・。今までは活かす場がなかった自慢の視力が役立っていますので、大変やりがいを感じています。

―― ご自身にマッチした仕事ですね。今後の目標はありますか
まずは正社員を目指しています。その次はリーダーや管理職と、目標を高く持っていきたいと思っています。目標を達成するためには、自分が担当している工程だけでも勉強不足なところはありますので、そこを押さえてから前後の工程への理解、さらには別の製品を製造している部署の理解などを進めたいと考えています。
一人で頑張るのはもちろんですが、THCでは今までの教育プログラムに加え、新たにOB人材(定年退職を迎えたベテラン)による教育制度も始めるようなので、その様なものを利用して早く成長できるように頑張っていきたいと思います。
【 編集後記 】
お話しにあったように、筒井さんの担当する検査業務はとても繊細で慎重に行う必要があるため、温度と湿度が一定に保たれ、かつ埃も一切入らないクリーンルームで行われています。私たちも外からは見ることはできていましたが、クリーンルームの中では、どんな風にどんな想いで仕事に取り組んでおられるのか、頭の中で想像するしかありませんでした。今回、筒井さんから自分達の工程だけではなく、後工程との連携も意識しながら取り組まれていることをうかがい、品質はチームワークの賜物であることを改めて認識しました。私たちも目の前の仕事に追われるだけではなく、周りを見渡して冷静に判断しチームワークでよりよい仕事ができるように努力せねばと、気を引き締めることができました。
(※)THC=テルモヒューマンクリエイト株式会社
テルモヒューマンクリエイト株式会社 愛鷹工場TIS生産課DES担当
メーカー工場勤務後、電気店、自動販売機ルートドライバーなどを経てTHCに入社。B型なのにA型と言われる程の細かく几帳面な性格で、今の仕事が性に合っていると語る。転職のきっかけは「家族との時間を大切にするため」。それまで朝5時から夜10時まで働いていた生活を一変させ家族の時間を確保。職場ではチームワークを大切にし、プライベートでは家族を想う優しい面を持つ。